2009年 04月 24日
源氏物語の男たち(1) |
「源氏物語」というのは、ご存知の通り、光源氏という美貌と才能に恵まれた貴公子が様々な女性を相手に恋愛遍歴を繰り広げる物語ですが、
源氏の恋愛相手として、藤壺の女御、紫の上、空蝉、夕顔、六条御息所、末摘花、花散里、明石の君、などの個性に溢れた多くの魅力的な女性が登場します。
これら源氏物語を彩る女性たちについては、現代でも多くの作家が取り上げて論評していますが、その一方で、源氏物語に登場する男たちは主人公の光源氏を除いて、殆ど語られることがありません。
物語の性質上、主人公である光源氏にばかりスポットが当たり、源氏以外の男たちは引き立て役としてしか遇されていないので、それも当然というか、いたしかたないところですが、
めずらしく、源氏物語の現代語訳をされた作家の瀬戸内寂聴さんが、昨年の文芸春秋5月号に、
「源氏物語千年 私の愛する男たち」というタイトルで、光源氏以外の源氏物語に登場する男たちについて書いておられます。
この瀬戸内さんのエッセイを下敷きにして、源氏物語に描かれる男たちについて、オカマの視点から語ってみたいと思います。
まず瀬戸内さんが取り上げているのは、源氏の異母兄である朱雀帝です。
朱雀帝は、源氏の父である桐壺帝と弘黴殿(こきでん)の女御の間に生まれた第一皇子です。
弘黴殿の女御は、勢力のある右大臣の娘で、誰よりも早く入内し、第一皇子である朱雀帝を産むのですが、その後、源氏の母である桐壺の更衣が入内し、帝の寵愛を一身に集め、光輝くような皇子、光の君が誕生します。
その結果、朱雀帝の立太子が危ぶまれるのですが、桐壺帝は最終的に兄の朱雀帝を皇太子にして、弟の光の君は臣下におとして源氏の姓を与えることを決断します。
臣下となった源氏はプレイボーイ振りを発揮して片っ端から女性を口説きまくるのですが、こともあろうに兄の東宮である朱雀帝の妃に内定していた朧月夜(おぼろづきよ)を口説いて関係をもってしまうのです。
瀬戸内さんは源氏が朧月夜と関係をもったのは、源氏の心の中に自分の母親である桐壺の更衣を苛め抜いて死に至らしめた弘黴殿の女御を中心とする右大臣一派に反逆する気持ちと、
帝位を継いだ異母兄である朱雀帝に張り合おうとする気持ちがあったのではないかと推察していますが、
源氏と朧月夜の関係を知った弘黴殿の女御は怒り狂い、源氏は彼女によって明石に追放されてしまいます。
で、肝心の婚約者を寝取られた朱雀帝の方ですが、これがあんまり怒らないんですよね。
瀬戸内さんはその理由として、朱雀帝が源氏に対して同性愛的な感情をもっていたからではないかと推察しています。
瀬戸内さんによると、この時代、男が男を好きになるのは、ごく普通のことだったそうです。
肉体も精神も女性的な朱雀帝は、魅力的な異母弟である源氏に惹かれていて、朧月夜との浮気もこれだけ魅力的な弟だから女性が惹かれてもしょうがないと考えていたのではないかというのです。
朱雀帝が源氏を憎み切れなかったことは、晩年になって、可愛がっていた三番目の娘である女三の宮の婿に源氏を選んで、後時を託したことからも伺えますが、
源氏に嫁いだ女三の宮は源氏の親友であり、ライバルでもある頭の中将の息子の柏木と密通して、不義の子(後の薫の大将)を産んでしまいます。
「因果はめぐる小車の・・・」というやつで、若い頃に兄の朱雀帝の婚約者である朧月夜と浮気した源氏は、晩年になって正妻に迎えた朱雀帝の娘に浮気され、今度は自分がコキュになってしまうのです。
結果的に朱雀帝は源氏に復讐したことになりますが、無意識にそれをやってしまったところが面白いというか、人生の皮肉なところでしょう。
さらに源氏が女三の宮を正妻に迎えたことで、それまで正妻格だった紫の上が不満を抱くようになり、出家したいと言い出し、源氏にその願いを拒絶されると病気になって死んでしまいます。
挙句の果てに密通した女三の宮も出家してしまい、源氏は孤独な晩年を迎えることになるのですが、
主人公である光源氏を甘やかすことなく、若い頃に散々遊んだツケを晩年になってきっちりと払わせるのが紫式部という女流作家の怖いところだと思いますね。
続く
「昔の日本人」
by jack4africa
| 2009-04-24 00:15