2013年 10月 22日
援助じゃアフリカは発展しない |
アフリカのザンビア出身の新進気鋭のエコノミストであるダンビサ・モヨ(Dambisa Moyo)が2009年に出版した「援助じゃアフリカは発展しない」という本を読みました。 。
この本のタイトルからわかるように著者のダンビサ・モヨは、これまで先進国が行ってきた対アフリカ援助に批判的で、
アフリカへの援助はたんにアフリカの役に立っていないだけでなく、アフリカにとって有害でアフリカの経済発展を阻害している元凶であるとまで言い切っています。
実際、1970年以降、サハラ以南のアフリカ諸国は3000億ドル以上の開発援助を受けてきたにもかかわらず、汚職、疾病、貧困、そして援助依存という負の連鎖から抜け出せずにいます。
最も援助に依存してきた国の過去30年間の年平均成長率がマイナス0.2パーセントで、
対アフリカ援助の最盛期である1970年から1998年の間にアフリカの貧困率が11パーセントから66パーセントまで上昇したというデータをみせられると、
援助がアフリカの経済成長を促すどころか、反対に成長を阻んでいるという著者の主張がある程度の真実を含んでいることは否定できないように思われます。
少なくとも、援助が目に見える形でアフリカの発展に貢献できていないことは素人目にも明らかで、援助資金が日本を含む先進国の国民の血税から拠出されている事実を考慮すれば、
われわれ先進国の国民は、自国の援助資金がどのように使われているのか、それが本当に被援助国の役に立っているのか、もっと関心を持つ必要があると思いますね。
アフリカへの援助が役に立たず、むしろ有害になっている原因として、ダンビサ・モヨは、まず第一にアフリカの国家元首は腐敗した独裁者が多く、
先進国からの援助資金の多くは彼らの懐に入り、一般国民の元には届かないことを指摘しています。
たとえば、ザイールの独裁者であるモブツ大統領は、西側からの援助資金、50億ドルを横領し、ナイジェリアのサニ・アバチャ大統領もほぼ同額をスイス銀行の自分の口座に送金したといわれています。
このような腐敗は当然のことながら、トップの国家元首だけでなく、その下で働く各レベルの官僚たちにも伝染し、結果として援助資金の大半が腐敗した政治家と官僚に吸い取られてしまうことになるというのです。
また先進国が気前よく援助を行った結果、貧しいアフリカ諸国は援助に依存するようになり、自立への努力を払わなくなっていると著者は指摘しています。
本来ならば国民に貯蓄を奨励し、そうして得た資金を投資に振り向けて国内の産業を育成すべきなのに、先進国から援助資金が絶え間なく流入するお蔭で、
政治家はそのような地道な経済発展のための政策を推し進めるインセンティブを失くしてしまうというのです。
このへんの事情は、若くて健康な人間にまで生活保護を与えて、彼らの労働意欲を削ぎ、生活保護に依存させてしまうどこかの国の誤った福祉政策をみれば、よく理解できるでしょう。
このような状況を改善するために、著者は先進国はアフリカへの経済援助を全面的にストップすべきだと主張しています。
西側からの援助が無くなれば、政治家も官僚も援助資金を横領できなくなり、その結果、腐敗した政治家や官僚は消えてなくなり、本当に国のことを考える政治家や公務員だけがその職に留まるというのです。
援助に代わる経済発展の処方箋として、著者は以下の4つの政策を採用することを提案しています。
1)国際的な債権市場にアクセスして債権を発行して資金を調達する
富める国から援助資金という名のお金を恵んでもらう代わりに、みずから債権を発行して借金して、その借金に利子を付けて返すことができれば、
世界の投資家のアフリカ諸国に対する信用は高まり、新たな投資や債券発行につながるだろうと著者は述べています。
2)中国によるインフラへの大規模投資をさらに増大させる
近年、中国企業は猛烈な勢いでアフリカに進出しています。
この中国のアフリカ進出に対してアフリカの資源を搾取しているとか、新・植民地主義であるとかの批判が出ているそうですが、著者はそのような見方を否定しています。
著者によると中国がアフリカで成功しているのは、ビジネスに徹しているからだそうです。
中国自体、民主国家ではないので、欧米諸国のように援助の条件として民主化を要求したりしないし、内政にも干渉してこない。
中国が関心を持つのは経済発展だけで、大規模な投資をしてくれる中国は、アフリカにとって貴重なビジネス・パートナーだというのです。
著者は、開発の初期段階においては、民主主義は開発と無関係であるどころか有害ですらあるといいます。
貧しい国々が経済開発の最も低い段階において必要とするのは複数政党民主主義ではなく、経済を発展させるために必要な改革を推し進める毅然とした慈悲深い独裁者だというのです。
著者は例として、開発独裁下で経済発展を遂げた中国や台湾、韓国、シンガポール、マレーシア、タイなどのアジア諸国や、
独裁者であるフジモリ大統領やピノチェト大統領の時代に経済発展を遂げた南米のペルーやチリを挙げています。
民主主義というのは、国がある程度、経済発展し、国民が豊かにならないと機能しないというのです。
3)農産物の貿易自由化を進める
貿易自由化により、アメリカやEC、日本など先進国が自国の農家に与えている補助金を撤廃させることができれば、アフリカ諸国が一次産品の輸出から得る利益が増加すると著者は主張しています。
4)金融仲介活動を促進する
これは具体的にいうと、ノーベル平和賞を受賞したバングラデシュ人の経済学者、モハマド・ユヌス氏がバングラデシュで創設したグラミン銀行のようなマイクロファイナンス機関をアフリカにも設立することを意味します。
グラミン銀行は、貧困層向けに事業資金を融資し、生活の質の向上を促す活動を行ってバングラデシュで大きな成功を収めたのですが、同様の貧困層向けの融資制度は、現在、世界各地に広がっていて、アフリカでもケニアやザンビアで成果を挙げているといいます。
「先進国の援助を全面的にストップするべきだ」という著者の「過激な」主張に対して、当然のことながら、援助関係者から反論が沸き起こっているようですが、
私は彼女がいっていることは大筋では間違っていないと思うし、なにより画期的なのは、アフリカ人自身の口からこのような援助を否定する声が出てきたことです。
これまでアフリカへの援助について語ってきたのはつねに先進国の人間で、U2のボノなどロックスターが「アフリカを救おう」というスローガンの下に、
派手なチャリティコンサートを開催する一方で、肝心の当事者であるアフリカ人の声が聞こえてくることはありませんでした。
なぜ当事者であるアフリカ人の意向が無視されたかというと、アフリカ諸国は先進国の援助なしにはやっていけない半人前の国家であるとみなされてきたからです。
実際、アフリカから聞こえてくるのは、テロや内戦、クーデター、虐殺、飢餓、HIVの蔓延、治安の悪化、等々、ネガティブなニュースばかりで、このようなニュースにばかり接していると、
アフリカ人には国家を効率的に運営する能力が欠けているのではないか、そもそもアフリカに独立を許したのは誤りではなかったか、とさえ考えてしまいます。
少なくとも植民地時代には、部族間の抗争やクーデターは起こらなかったしし、都市の治安も現在とは比較にならないほど良かったはずです。
しかし、このようなアフリカに対する見方は、ハーバード大学で修士号、オックスフォード大学で博士号を取得し、世界銀行とゴールドマン・サックスで働いたという輝かしい経歴を持つ、
著者のようなアフリカ人エリートにとっては容認し難いものでしょう。
彼女が本書で主張しているのは、アフリカ人にも、ほかの人種と同様、国を発展させる能力はあるが、それを阻害してきたのは、ほかならぬ、
援助という名の麻薬をアフリカに与え続けて、アフリカを援助中毒にしてしまった欧米先進国にあるということです。
実際、欧米諸国は、様々な思惑から、ザイールのモブツ大統領や中央アフリカのボカサ“皇帝”のような腐敗した独裁者に巨額の援助を与え続け、
彼らが国民の貧窮をよそに、贅沢三昧の生活に耽ることを助けてきたのです。
実はアフリカの前途は有望で、アフリカが将来、発展する可能性は大きいという説があります。
その説の第一の根拠は、アフリカの人口にあります。
現在、アフリカ大陸には約10億人の人間が住んでいますが、出生率が高いことから2030年までにアフリカの人口はインドや中国を抜き、あと30年間で2倍の20億人に達する見込みだといいます。
このことは将来、アフリカで安価な労働力を大量に調達でき、人口に見合った大きな消費市場が生まれる可能性があることを意味しており、
アフリカの未耕地の多さや原油や銅、金などの豊富な鉱物資源の存在を考えると、やり方さえ正しければアフリカが大きく発展する可能性は十分にあるというのです。
すでにルワンダのカガメ大統領のように「欧米によってなされた経済援助には効果がなかった」と言明するアフリカの指導者も出ているそうで、
アフリカがこのような新しい指導者の下で、著者のいう欧米の援助に頼らない自立した発展を遂げていくことができれば、それは素晴らしいことだと思いますね。
最後にこの本の翻訳について一言、文句をいわせてもらいます。
この本は東洋経済新報社という出版社から出版されていて、小浜裕久という開発経済の専門家が監訳者としてクレジットされているのですが、
「監訳」という言葉からわかるように、小浜氏が訳しているのは本書の一部だけで、残りは彼の「友人」たちが分担して翻訳したといいます。
そのせいか、訳者によって翻訳レベルの差があり、特に著者が最も力を傾注して書いたと思われる第4章「経済成長の無言の殺し屋」の訳文のレベルは非常に低く、何を言おうとしているのか理解するのに時間がかかり、読みにくいことこの上ないです。
またConditionalityとかFungibleとかCrowding outといった専門的な用語を適切な日本語に訳さず、「コンディショナリティ」「ファンジブル」「クラウディングアウト」とそのままカタカナで表記しているのは、専門知識を持たない一般の読者に対して不親切だと思います。
あと訳者の何人かが、著者が文中で批判している援助機関の一つであるJICA(国際協力機構)の職員であることにもひっかかりを感じます。
本の著者とその本の訳者の思想が一致しなければならないという規則はありませんが、国家公務員の1.33倍の給与を取り、出張に際しては正規運賃のビジネスクラスを利用し、
年に何度も海外出張する職員は航空運賃だけで年間1000万円も遣うという絵に描いたような援助貴族であるJICA職員が、
彼らのような援助関係者こそがアフリカの発展にとって有害であると主張する本を翻訳していることに強い違和感を覚えるのです。
訳者あとがきに書いているように日本の援助は「自助努力を側面支援する」援助であって、欧米の援助とは違うと考えているのかもしれませんが、
果たしてそのような日本の援助が本当に被援助国の役に立っているか、税金の無駄遣いは行われていないかをきちんと検証するシステムは存在するのでしょうか。
出張で正規運賃のビジネスクラスに乗ること自体、税金の無駄遣い以外の何者でもないと思うのですが。
著者:Dambisa Moyo
イケイケ姉ちゃん風の黒人女性ですが、ハーバード、ケンブリッジ、世界銀行、ゴールドマン・サックスですからねぇ。
そのへんのおネェちゃんとはちょっと違うのです。
本日のつぶやき
朝鮮日報「在日韓国・朝鮮人は好きで日本に住む訳でない、韓国が支援を」
実際、在日コリアンは、自分たちは日本に強制連行されてきたと主張しているんだから、日本が北朝鮮に対して日本人拉致被害者の日本への送還を強く要求しているように、韓国や北朝鮮は日本に「強制連行」された在日コリアンとその子孫の自国への引き渡しを要求すべきでしょう。
by jack4africa
| 2013-10-22 00:01
| 国際関係