2014年 06月 03日
多文化主義か同化か、欧米の移民問題(1) |
前回のエントリーで紹介したフランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッドの著書「移民の運命」はタイトルから判るように移民について書かれたもので、同性愛についてはほんの僅かしか触れていません。
それを私が勝手に敷衍して色々と考察したのですが、今回はこの本の本来のテーマである移民問題について、トッドの見解を紹介してみたいと思います。
トッドはこの本でアメリカ合衆国、イギリス、フランス、ドイツの4ヶ国の先進民主主義国家を取り上げて、これら4ヶ国で移民が置かれている状況を比較、分析しているのですが、
一口に移民問題といっても各国で異なり、移民が移住先の国にうまく適合できるかどうかは、移民を受け入れる国の文化と移民が背負っている祖国の文化の相性が合うかどうかによって決まるそうです。
トッドは家族の形態と遺産相続の方法に基づいて、世界の文化を7つの家族型に分類しているのですが、
まずアメリカの家族型は、子供が成人に達したら親元を離れて独立した世帯を持つ核家族で、遺産は遺言によって特定の子供に残され、兄弟姉妹が均等に相続することがない、
トッドが「絶対核家族」という呼ぶ家族型になります。
このような家族型を持つ文化の下に育った人間は、親子、兄弟の縁が薄いので、自由・独立の精神が涵養されるものの、兄弟間の相続が均等でないことから、人間の平等には無関心で、逆に人間の差異に敏感になるといいます。
その結果、このような差異に敏感な文化を持つアメリカでは人種差別が起こりやすくなるのですが、
アメリカでは黒人を不可触選民として差別することで、黒人以外の人種の平等を達成しているといいます。
イギリスもアメリカと同様、絶対核家族と呼ばれる家族型を持ち、差異に敏感な文化を持っています。
イギリスでは主要な移民集団として、ジャマイカ人、シーク教徒のインド人、パキスタン人がいますが、
ジャマイカ人は、その家族型がイギリス人と同じ絶対核家族で、本来ならば、イギリス社会に溶け込みやすい筈なのが、肌の黒さゆえにアメリカと同様、「黒人」に分類され、差別されているそうです。
ただイギリス社会は白人自身も平等ではなく階級に分かれているので、ジャマイカ人の一部はイギリスの労働者階級と通婚して下層階級に組み込まれることによって、
アメリカの黒人のように社会的に完全に孤立するところまではいっていないといいます。
次にイギリスのインド人移民の大半を占めるシーク教徒ですが、彼らの家族型はドイツ人やユダヤ人、日本人などと同じ「権威主義家族」に分類されるそうです。
権威主義家族というのは、親の権威が強く、子供の一人(通常は長男)が親の財産を相続して親と同居し、それ以外の兄弟は家を出て別の職業に就く家族型で、
このような家族型の文化の下に育った人間は、親の権威が強いことから、権威主義的な中央政府の下に一致団結する傾向が強く、
絶対核家族と同様、兄弟間の相続は不平等であることから、人間の平等には関心が薄く、差異に敏感になるといいます。
また絶対核家族は、女性の地位が比較的高く、子供の教育に熱心なことから、移民としては成功しやすいそうです。
トッドによるとアメリカで一番成功した移民グループは、この権威主義家族の文化を持つユダヤ移民と日系移民で、移民一世は大抵、小規模な商店を営みながら子供には高等教育を受けさせたので、
2世の代になると中産階級に入り込むことに成功し、急速にアメリカ社会に同化していったといいます。
イギリスのシーク教徒移民も同様で、2世の子供に高等教育を受けさせることから、2世の代で中産階級に入り込み、イギリス社会への同化が急速に進んでいるそうです。
移民の移住先の国への同化の指標は、移住先の国の人間との結婚の比率になるそうですが、当然のことながら、シーク教徒はその比率が高いといいます。
それでもシーク教徒の男性はイギリスでも必ずターバンを巻いて髭を生やしているそうで、これはトッドのいう「差異主義的社会におけるマイノリティーの義務的な自己主張」に相当し、
そうしないとイギリスの白人は不安を覚えるんだそうです!
最後のパキスタン人移民ですが、この移民集団がイギリスで一番差別され、疎外されているといいます。
パキスタン人の家族型は、子供たちが結婚しても親と同居を続け、両親と複数の兄弟夫婦とその子供たちの三世帯が同居する大家族を形成し、
兄弟間の相続は均等で、イトコ同士が結婚する習慣を持つ「内婚制共同体型」に分類されるのですが、
これは外婚制(イトコ同士を含む親族間の結婚をタブー視する)で、核家族で、不平等主義であるイギリスの絶対核家族とは正反対の家族型であることから、
イギリス社会に同化しにくく、社会的に隔離、疎外されることになり、イスラム原理主義の温床になっているそうです。
私は、ヨーロッパのイスラム移民の間でのイスラム原理主義の流行は、移民がその出身国からもち込んだものだとばかり思っていたのですが、そうではなく、
イスラム教徒に占める原理主義者の割合は、移民を送り出している本国よりも、移住先のイスラムコミュニティーの方が大きいといいます。
つまり、移住先の社会に同化できず、疎外感を味わっているイスラム教徒の移民がイスラム原理主義に傾倒して、イスラム原理主義者として活動するようになるというのです。
2005年7月7日にロンドンで起こった56人が死亡した地下鉄とバスの同時爆破テロの実行犯の4人の内、
3人がイギリス生まれの英国籍を持つパキスタン系移民2世であったことは、このトッドの説の正しさを証明しているように思えます。
4人目の実行犯は、子供のときに親に連れられてイギリスに移住してきた19歳のジャマイカ人で、彼はイギリスに来てからイスラム教に改宗して、
ほかの3人の実行犯のパキスタン系移民2世とは礼拝のために通っているモスクで知り合って、交流を深めるようになったといいます。
イスラム国家ではないジャマイカから移住してきたジャマイカ人がイギリスに来てからイスラム教に改宗して原理主義者になったという事実は、イギリスにおけるイスラム原理主義の出現が、
移民の送り出し国の宗教事情とは直接、関係ない、イギリス社会で移民が置かれている状況に起因するものであることをよく示しているように思えます。
イギリスにおけるパキスタン系移民の原理主義への傾倒について言及したこの本が出版されたのが1994年で、ロンドンでパキスタン系移民2世による爆弾テロが起こったのが2005年、
1994年の時点で、すでにこの事件の発生を予見していたトッドの洞察力には驚かされます。
続く
本日のつぶやき
首相の靖国参拝発言で会場に賛同の拍手 アジア安保会議
安倍晋三首相が30日、アジア安全保障会議(シャングリラ対話)で自身の靖国神社参拝について「国のために戦った方に手を合わせる、冥福を祈るのは世界共通のリーダーの姿勢だ」などと語り、会場が拍手に包まれる一幕があった。(産経ニュース2014.5.31)
中韓を除けば、これが世界の常識でしょう。
by jack4africa
| 2014-06-03 00:01
| 国際関係