2006年 07月 28日
福島次郎 「三島由紀夫-剣と寒紅」(2) |
三島由紀夫は何回かのデートの後、福島次郎をホテルに誘って身体の関係を持つのですが、福島は三島の「電気コードの被覆部をはぎとった『裸線』のような」痩せた貧弱な肉体にまったく魅力を覚えず、セックスの間、ずっとマグロ状態だったといいます。
世間でもて囃されている流行作家である三島由紀夫と親しく付き合えることを光栄に思い、東京山の手のハイカラな中流階級の三島家に出入りできることを嬉しく感じるのですが、三島とのセックスは苦痛以外の何者でもなかったといいます。
いっそのこと福島がノンケだったら三島とのセックスは可能だったのではないかと思うのですが、あいにくと福島はホモで、タイプ以外の男とはヤル気になれないんですね。
それでもしばらく我慢して三島と付き合うのですが、夏になって伊豆の旅館に三島と一緒に逗留しているときに、セックスの最中にヒステリックにゲラゲラ笑い出して、その場の雰囲気をぶち壊してしまいます。
三島の肉体にたいする嫌悪感がそういう形で噴き出すんですね。
それで三島との仲は破綻し、福島は故郷の九州に戻って高校教師になります。
二人の関係が復活したのはその十数年後の昭和36年、福島が教師生活の合間に書き綴った小説が地元新聞の「文学賞」を受賞し、その小説を自費出版した本を三島に送ったところ、三島から返事が来るのです。
そして翌年の昭和37年に上京した折に三島と久しぶりに再会するのですが、三島は昔と較べて随分と変わっていたそうです。
その頃、三島はすでに結婚して子供も作っていて、有名になったボディービルも始めていたそうですが、へんにカッコつけた人間になっていて、以前のような自然さが失われていたといいます。
そして、「君も結婚したまえ。子供ってできてみると可愛いもんだよ」などと世間一般の親父みたいな月並みな台詞をいって福島を白けさせます。
三島は「禁色」以降、同性愛をテーマにした小説を書くのをやめていて、自分の性癖を世間から隠すようになっていたのです。
その後も二人の間で手紙の交換は続くのですが、昭和41年の夏に三島が突然、福島の故郷である熊本にやってきます。
その頃、三島はすでに右翼思想に傾倒し、「楯の会」というものを作って若い青年を集めて軍隊ごっこをしていたのですが、明治9年に熊本市で起った「神風連の乱」という士族の乱に興味を持ち、その取材のために熊本に来たのです。
この神風乱を起こしたのは明治政府に不満を持つ勤皇派の士族が結成した敬神党というグループで、構成員の多くが神職に就いていて、独特の祈祷などを行なったそうで、三島由紀夫はこの敬神党の思想に共鳴していたというのです。
熊本にやって来た三島由紀夫は宿泊したホテルで、福島の前でふんどし一つの裸になってボディービルで鍛えた自慢の肉体をみせびらかします。
そして二人は久しぶりにセックスするのですが、福島の身体はやはり反応しないのです。
福島は、三島の不恰好で不自然な「肉体美」を目のあたりにして「どんなに鍛えても、この人の体はやはり裸線なのか」と思ってしまうのです。
彼はその肉体を形容するのに「畸形」という言葉さえ使っています。
やっぱり、福島はホモだから、男の肉体についてはうるさいんですね。福島自身、三島に惚れられたくらいだから良い身体をしていただろうし・・・
ただ、三島は若い頃はベッドでは「タチ」だったそうですが、このときは「ネコ」になっていたそうです。
福島は三島がネコになったせいで、やたらと男っぽく振舞うようになったのではないか、と興味深い推察をしています。
三島はこの3年後に割腹自殺をするのですが、この頃すでに、それを予告するような2.26事件を起こした青年将校が切腹するシーンを描いた「憂国」という映画を製作し、主人公の青年将校を演じています。
私はこの「憂国」という映画を観ましたが、みたくもない他人のマスターベーションを無理やり見せられたような不快感しか残らない、実に悪趣味な映画でした。
その後、三島由紀夫が実際に割腹自殺したときにも同様の不快感を覚えました。
自殺するのは本人の勝手だけど、なにもあんな派手な人騒がせな形でやる必要はないだろう、と腹立たしく感じたのです。
当時の三島はこの「憂国」だけでなく、裸の写真も沢山、撮らせていて、あの貧相な針金の骨格に無理やり粘土の筋肉をくっつけたような不恰好な肉体を得意気に披露しているのですが、
福島は「先生は自分の肉体が本当にカッコ良いと思っているんだろうか」と不思議がっています。
多分、周囲の取り巻き連中に「先生の肉体はカッコ良い」とか「セクシー」だとかおだてられて「豚もおだてりゃ木に登る」状態になっていたのでしょう。
福島自身、「先生の身体は特別、刺激的だから、襲われないように注意した方がいいですよ」などとおべんちゃらをいってます。
福島が三島にゴマをすって、寝たくもない三島とまた寝たのは、自分が同人誌に掲載していた小説を出版してくれる東京の出版社を三島に紹介してもらいたかったからです。
ところが、三島は福島の期待に反して、「今どきそういうテーマ(同性愛)の小説は流行らないから、出版社は出したがらないよ」といって、福島の頼みを断ってしまうのです。
この三島の言葉に傷つき、反発した福島は、小説で三島に復讐するのです。
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by jack4africa
| 2006-07-28 02:14