2009年 04月 28日
源氏物語の男たち((2) |
源氏物語で、光源氏の親友かつライバルとして登場するのが頭(とう)の中将です。
頭の中将は、六条御息所の生霊にたたられて死んでしまった源氏の正妻、葵の上の兄弟で、源氏の義理の兄弟にあたります。
平安時代の貴族は、自分の妻の兄弟と男色関係を持つことが多かったそうで、それを考えると光源氏と頭の中将もそのような関係になってもおかしくありません。
しかし、源氏物語では、源氏と頭の中将の間に同性愛関係があったとことを示唆するような記述は出てきません。
ただ、若き日の源氏と頭の中将の仲の良さと競争心の強さを物語るエピソードとして、源氏が60歳になんなんとする源の内侍(げんのないしのすけ)という男好きで有名な老女官と関係をもったという噂を聞いた頭の中将が、
自分もまた源の内侍と関係を持ちたいと願って彼女を口説くという話が出てきます。
源氏物語の現代語訳がある作家の橋本治は、源氏物語について語ったエッセイ「源氏供養」の中で、このエピソードについて、
「光源氏と頭の中将はいくら仲が良くても、男同士でセックスはできないので、その代わりに源の内侍という同じ女性を共有することで互いの愛情を確かめ合ったのだ」
と語っています。
しかし、前述したように、瀬戸内寂聴さんは、「この時代、男が男を好きになるのは普通のことだった」と述べています。
実際、「院政期の日本人」で紹介したように、平安時代には、公家の間で男色の習慣が広まっていたことが知られています。
紫式部と同時代に生きた藤原実資という公家の日記にも、紫式部のパトロンだったといわれる藤原道長の息子の頼通を御所の清涼殿で抱いた夢を見て、
目が覚めたときには「余の玉茎、木の如し」、つまり、アソコがギンギンに硬くなっていたという記述がでてきます。
問題は、なぜ、紫式部が当時、盛んだったといわれる男色を源氏物語で描かなかったかということです。
簡単にいうと、紫式部にはヤオイ趣味がなかったということになるでしょうが、院政期の歴史の研究家として知られる歴史学者の五味文彦氏は、
平安時代では女色についてはオープンで、文学作品にもよく取り上げられていた一方、男色関係は閉鎖的で秘密結社的な男同士の世界に閉じ込められ、大っぴらに語られることがなかったと述べています。
日本で男色をテーマとする文学作品が登場するのは、稚児と僧侶の恋物語が書かれるようになった室町時代からで、
紫式部をはじめとする女流作家が主要な担い手だった平安時代の王朝文学では、男色のテーマやエピソードを書くことにはタブーがあったのかもしれません。
源氏物語に唯一、登場する男色関係を暗示するエピソードは、空蝉という人妻に懸想した源氏が空蝉の弟の小君という少年の手引きで空蝉の屋敷に忍び込み、
寝ている空蝉を襲うつもりが、間一髪のところで逃げられてしまい、仕方なく、その夜は小君を抱いて寝たという話ですが、
このエピソードについても、源氏と小君の具体的な性関係を示す描写はなく、読む人の想像に任せるといった風な曖昧な書き方しかされていません。
そのため、前述した橋本治の、
「光源氏と頭の中将はいくら仲がよくても、男同士でセックスはできないので、その代わりに源の内侍という同じ女性を共有することで互いの愛情を確かめ合ったのだ」
という言葉は、
「紫式部は光源氏と頭の中将を同性愛関係にしたくなかったので、二人が源の内侍という同じ女性を共有することで互いの愛情を確かめ合うという設定にしたのだ」
といいかえた方がより正確になるような気がします。
この頭の中将は、源氏物語の中では源氏と唯一、張り合える貴公子で、若い頃は、源氏と同様、多くの女性と浮名を流しますが、その一方で家庭を大切にして10人もの子供を作り、子供を大層、可愛がります。
正妻の女三の宮が柏木と密通して産んだ血の繋がっていない薫の大将と父帝の寵妃である藤壺の女御と密通して産ませた冷泉天皇を含めても4人しか子供を作らず、嫡男の夕霧に対してもどこか冷たいところがある源氏とはエライ違いです。
また、頭の中将は、源氏が明石に追放されたときには、源氏の敵対勢力である右大臣一派の不興を買うことを恐れず、わざわざ明石まで親友の源氏を訪ねていって不遇をかこつ源氏を慰めています。
このように頭の中将は、男らしいさっぱりした性格で、友情に篤く、家庭を大事にする、良き父親として描かれているのですが、一口にいって、彼はとてもノンケっぽい男性です。(実際、ノンケですが)
それでは光源氏はホモっぽいのかといわれたら、そのとおり、彼はとてもホモっぽい人物だと思います。
源氏は女好きで、男との関係は前述した小君との淡い関係しかありませんが、ほかの男たちから「女にしてみたい」といわれるほど色っぽく、
男でさえ魅了してしまうような艶かしいところがあって、頭の中将のように男らしい男とはいえません。
性格も帝の皇子に生まれながら皇太子にはなれず、臣下に下されたという境遇のせいか、だいぶ屈折したところがあります。
そもそも、作者の紫式部が理想の男性として創りあげた、文武両道に秀で、女性だけでなく、男性をも魅了するという、光源氏というキャラクター自体、あんまりリアリティーが感じられないんですね。
宝塚ファンの女性が憧れる宝塚の男役と同じで、現実にこんな男がいるとは想像し難いのです。
その点、頭の中将の方は、現在にもいる子煩悩なヤンパパといった感じで、ホモの私としては、源氏と頭の中将のどちらを選べといわれたら、迷うことなく頭の中将の方を取ると思いますね。
続く
「昔の日本人」
by jack4africa
| 2009-04-28 00:14

