2009年 06月 23日
カランジル |
制作:2003年、ブラジル
監督:製作・脚本:ヘクトール・バベンコ
出演:ルイス・カルロス・ヴァスコンセロス、ロドリゴ・サントロ
この映画は、サンパウロにあった南米最大のカランジル刑務所で92年に実際に起こった囚人の暴動を描いたドキュメンタリータッチの実録映画です。
この刑務所、脱走と暴動があまりに頻発するので、2002年に閉鎖されたそうですが、映画の撮影は、セットと閉鎖後に解体される前の実際のカランジル刑務所の建物の一部で行われたそうで、暴動シーンなど、とても劇映画とは思えないド迫力です。
この暴動の鎮圧にあたった軍警察が無抵抗の囚人を111人も虐殺するという事件を引き起こすのですが、監督は虐殺シーンの描写は控えめにして(それでもかなり凄いですが)、
刑務所内でのエイズ予防キャンペーンで刑務所を訪れたボランティアの医師のもとに診察を受けにやってくる囚人たちが、医師にむかって、
シャバにいた頃、どんな生活をしていたか、なにをやらかして刑務所に入れられたかを語る回想シーンを織りまぜて、個々の囚人の親子、兄弟、夫婦、友人関係などに重点をおいたヒューマンドラマに仕立てています。
シャバにいたときに女装の男娼として働いていて、刑務所に入ってからも囚人相手に身体を売っている若い男が、囚人の一人と恋仲になって結婚することに決めたので、
その前にエイズ検査を受けたいといって医師のもとに訪れるのですが、胸にシリコンを入れて豊胸手術をしているのに気がついた医師に、
「下の方も手術してるのかい?」
と聞かれて、
「ううん、下は手術してないわ。だって男たちはみんなベッドの中ではオンナになりたがるんだもん」
と答える場面にはおもわずニヤリとさせられます。
この女装の男娼を演じているのは、超イケメンのブラジル人俳優、ロドリゴ・サントロで、最近、アメリカ映画にも出演しているそうですが、こんな二枚目なのに女装の男娼などという汚れ役に挑戦しているのはエライ!
彼と恋人の男が、囚人仲間に祝福されて、刑務所内であげる結婚式のシーンは、なかなか感動的です。
そのような劣悪な環境で生活しているわりに、それほど悲惨さが感じられないのは、日本の刑務所みたいに規則づくめで窮屈ではなく、開放的なせいでしょう。
たとえば家族の面会日というのがあって、その日には、囚人たちは刑務所の中庭で、面会にきた妻や母親が持参した手料理を一緒に食べたり、雑居房の自分のベッドに女房や恋人を連れ込んでセックスしたりします。
また刑務所内ではドラッグの売買が自由に行われていて、それで稼いでいる囚人もいます。
あとブラジル人はテレビ好きで知られる国民だそうで、囚人一人ひとりが、自分のベッドに小型テレビを取り付けていて、夜、真っ暗な雑居房で10台くらいの小型テレビがいっせいに映像を映し出し、音を出すシーンはとてもシュールで幻想的です。
このように一見、のどかに見える刑務所生活ですが、水面下では様々な緊張や不満、葛藤が渦巻いていて、囚人同士の些細な喧嘩がきっかけで日頃の不満が爆発し、あっという間に刑務所全体の暴動にまで発展してしまいます。
暴動を鎮圧するために軍警察が介入するのですが、そこに映し出される虐殺シーンは正視するに耐えません。
最初にいったように、監督はこの虐殺シーンを抑え気味に撮っているのですが、それでもこの映画で描かれる虐殺がフィクションではなく、
実際に111人もの囚人が虐殺されたという事実が持つ重みが画面からひしひしと伝わってきて、見ていてなんともいえない息苦しさと重苦しさを覚え、沈鬱な気分になってしまうのです。
この映画で描かれる囚人の暴動・虐殺事件といい、『シティ・オブ・ゴッド』で描かれた、小学生くらいのちびっ子ギャングが拳銃をパンパン撃ちまくって人を平気で殺す、リオのスラム街のギャング同士の抗争事件といい、
すべてブラジルで実際に起きた事件で、こういうブラジル社会の暗部の凄まじい実態を見せつけられると、暗澹として言葉がでません。
それでも私としては、ブラジルの映画人が、そのようなブラジル社会の現実から目をそむけることなく、それを正面から見つめて映画化する勇気を持ち、ブラジルという国が、このような自国の恥部を描く映画の公開を許す民主主義国家であるところに希望を見出したいです。
それにしても、以前、紹介した『ミッドナイト・エクスプレス』もそうですが、刑務所を舞台にした映画ってソソルんですよねぇ。
囚人役の俳優もエキストラもフェロモンむんむんの男臭い連中ばっかりで・・・
このカランジル刑務所、全体が閉鎖されたわけではなく、一部はまだ刑務所として使われているそうで、今度、サンパウロに行く機会があったら、是非、ボランティアの慰安夫として慰問に行きたいです(笑)
CARANDIRE MOVIE TRAILER
by jack4africa
| 2009-06-23 00:16
| 世界の映画&音楽