2009年 08月 04日
紅楼夢の男色エピソード |
紅楼夢(こうろうむ)は、清朝中期 (18世紀中頃) に書かれた中国の長編小説で、三国志演義、水滸伝、西遊記とともに中国四代奇書に数えられています。
金陵(現在の南京)の大貴族、賈家のお坊ちゃま、賈宝玉(か・ほうぎょく) と彼を取り巻く金陵十二釵 (金陵の12のカンザシの意) と呼ばれる一族の美女たちの豪奢な暮らしぶりを描いたこの小説は、
現代の中国でも人気があり、映画化やテレビドラマ化されているそうですが、男色のエピソードもいくつか出てきます。
この小説を読むと、当時の中国では、昔の日本と同様、男色は悪とはみなされず、大半の男性が女色と男色の両方を楽しんでいたことがわかります。
たとえば、物語の主人公である賈宝玉は、「女の子は水で出来た体、男は泥で出来た体」が口癖で、女が大好きですが、それでも男の子ともちゃんと恋愛しています。
最初の相手は秦鐘(しん・しょう)という宝玉と同い年の遠縁の少年で、賈家が一族の少年たちを教育するために開いている私塾で勉強するためにやってきます。
そして同じ私塾で勉強することになっていた宝玉と出会うのですが、宝玉はその繊細な美少年ぶりに一目惚れし、秦鐘の方も宝玉の美貌に心を奪われ、相思相愛の仲になります。
このとき、二人の年齢は12、3歳くらいでしょうか。
宝玉と秦鐘は仲良く私塾に通うことになるのですが、この賈一族の子弟が通う塾には、その様子が女のようになまめかしく仇っぽいので、香憐と玉愛というあだ名を付けられている二人の美少年がいます。
宝玉と秦鐘はこの二人をみるやいなや抑えがたい恋心を抱くようになるのですが、彼らが塾のボス的存在である薛蟠(せつ・ばん) のお稚児さんであると聞いて言い寄ることができません。
薛蟠という男は、宝玉のイトコに当たるのですが、以前、女の取り合いで人を殺した前科があり、賈一族の人間ということで処罰を免れたものの、素行がいっこうに改まらない評判の不良です。
薛蟠は、宝玉たちよりずっと年長で、本来は塾に通う年齢ではないのですが、塾生である少年たちの尻を狙って塾に入り、めぼしい美少年たちをすべて自分のものにしているのです。
当然のことながら、薛蟠は香憐と玉愛にも手をつけていて、みんな薛蟠の威勢を恐れてこの二人には手を出さないでいるのです。
しかし、香憐と玉愛の二人も、宝玉と秦鐘と出会って彼らに恋してしまいます。
四人の少年たちは、ほかの塾生たちに勘づかれないように秘かに恋心を養っていたのですが、あるとき、薛蟠が塾を休み、
好機到来とばかりに秦鐘が香憐に目くばせして、便所に行くといって二人で教室を抜け出し、裏庭の片隅にいって話しこみます
ところがその現場を金栄という塾生に見つかってしまいます。
金栄は、「お前たち、二人で隠れてなにをこそこそ話しこんでたんだヨ。逢引の相談でもしてたんじゃないのか」と疑います。
秦鐘と香憐は当然、否定しますが、金栄は教室に戻って、二人の仲が怪しいと吹聴します。
実はこの金栄も薛蟠のお稚児さんだったのですが、薛蟠の関心が香憐と玉愛に移ったお陰で薛蟠に捨てられ、それ以来、香憐と玉愛に恨みを抱いていたのです。
秦鐘と香憐がいちゃついている現場を押さえたと言いふらす金栄に玉愛は腹を立て、金栄に猛然と食ってかかるのですが、騒動を聞きつけた塾生の一人が、宝玉に付き添って塾に来ている宝玉の召使いに、
「金栄が秦鐘を馬鹿にし、お前の主人の宝玉も一緒くたにされて馬鹿にされている」
と注進したため、今度はこの召使いが金栄のところにやって来て、「俺のご主人様のことで好い加減なことをいうとぶん殴るぞ!」と怒鳴りつけます。
金栄が「召使いの分際でエラソーなことをいうな」と言い返し、ケンカになるのですが、言い争っている宝玉の召使いめがけて、金栄の仲間がすずりを投げつけ、
そのすずりが的を外れて別の塾生の机に当たり、机の上に置いてあったその塾生の本を墨で汚してしまいます。
本を汚されて怒った塾生は、ずずりを投げ返し、あっという間に塾生たちとその召使いが入り乱れて、モノの投げ合いと取っ組み合いのケンカが始まり、大騒動になってしまうのです。
まるで「花ざかりの君たちへ」の男子校ですね。
次に宝玉が好きになるのは蒋玉函(しょう・ぎょくかん)という女形役者です。
彼とは、宝玉が酒宴に招かれた知人の家で出会うのですが、お互いに一目惚れ、友情の印に互いの腰帯を交換します。
ところがこれが後で大変な騒動に発展します。
実は、玉函はある親王殿下に愛童として囲われる身だったのです。
この頃の中国では、貴族や裕福な商人が美貌の女形役者を愛人にするのが流行していたのですが(「断袖の交」を参照) 、
玉函は宝玉と知りあってから直ぐに親王殿下の屋敷を飛び出して行方不明になってしまいます。
宝玉と愛し合うようになった玉函は、親王殿下の寝所に侍るのが苦痛になり、隠れ家に移って、そこで宝玉と逢引きを重ねていたのです。
親王殿下は部下に命じて、行方がわからなくなった玉函を探させます。
部下は玉函が宝玉と親しくしていたという噂を耳にし、宝玉のもとに訪れて、玉函の居場所を知らないか尋ねるのですが、宝玉は知らないとシラを切ります。
すると、部下は皮肉たっぷりに、
「もしご存知ないとしたら、どうしてそれが坊ちゃんの腰に巻かれているのでしょう」
と宝玉が締めている紅い腰帯を指差します。
その腰帯は、玉函と腰帯を交換したときに貰った玉函の腰帯で、元はといえば、親王殿下が玉函に下賜されたものだったのです。
それで宝玉はシラを切り通せなくなって、玉函の居場所を白状してしまうのですが、話を聞いた宝玉の父親は激怒し、宝玉を散々、鞭で打ちすえます。
宝玉が男色に耽ったことに怒ったのではなく、畏れ多くも親王殿下の情人に手を出して、親王殿下から奪い取るという大変な不敬行為を働いたから怒り狂ったのです。
その次に宝玉の前に現れるのは柳湘蓮(りゅう・しょうれん) というイケメンです。
賈家の一族の男の任官祝いの宴会に招待されてやってきたこの男、元は良いところのお坊ちゃんなのですが、学問に興味がなく、両親も死んでいないので、素人芝居などして遊んで暮らしています。
宝玉は柳湘蓮を一目みて、その男振りに心ときめくのですが、ここに邪魔者が入ります。
宝玉のイトコであるあの不良の薛蟠です。
以前、柳湘蓮をみかけてその美貌に注目していた薛蟠は、宴会で一緒になったのを幸いに早速、柳湘蓮を口説きはじめます。
素人芝居にうつつを抜かしているような道楽者だから、誘えば簡単に落ちると踏んだのですが、柳湘蓮はその馴れ馴れしい態度にカチンときます。
別に男嫌いというわけではなく(その証拠に自分を慕う宝玉のことは憎からず思っています)、薛蟠が自分を誘えばすぐに寝るような尻軽女、もとい尻軽男みたいに扱ったので頭にきたのです。
柳湘蓮は見かけは軟派ですが、性格は硬派で、ケンカも強く、プライドが高いのです。
そこで彼は一計を案じて、薛蟠を懲らしめることにします。
薛蟠の誘惑に乗ったフリをして、
「これから僕の下宿に行って、二人で飲み明かさないかい?」
と誘います。
薛蟠は大喜びで柳湘蓮に付いていくのですが、町はずれまできたとき、柳湘蓮は、
「ふざけるな、テメェ、自分を何様だと思ってるんだ!」
と薛蟠に殴りかかり、彼をボコボコにして、
「どうかお許しください。私が悪うございました」
と地面に這いつくばって謝らせるのです。
この二人ですが、その後、ひょんなことで義兄弟の契りを結ぶことになります。
薛蟠が旅行中に盗賊に襲われ、偶々、通りがかった柳湘蓮が盗賊を打ち負かして薛蟠を助けたことをきっかけに、薛蟠の願いを入れて、柳湘蓮は彼と義兄弟になることに同意するのです。
義兄弟になったことで、薛蟠が長年の想いを遂げたかどうかわかりませんが、中国では義兄弟になると同じ寝台で一緒に寝たりするそうで、義兄弟の関係を同性愛関係の意味で使うことも多いといいます。
たとえば、有名な「桃園の誓い」で義兄弟の契りを結んだ三国志の英雄、劉備、関羽、張飛の3人ですが、中国では、劉備と張飛を「そういう関係」の喩えとして使うことがよくあるそうです。
そういえば、「三国志演義」で、張飛が劉備と別れるとき、「義兄さんと別れるのがつらい」といって泣く場面がありました。
中国では1997年に同性愛が合法化され、北京や上海のような大都会では、ゲイバーやゲイクラブもできているそうですが、
元々、日本と同様、同性愛の長い歴史と伝統のある国で、欧米キリスト教圏のような宗教的なタブーも存在しないことから、同性愛が社会的に許容される下地はできていると思いますね。

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by jack4africa
| 2009-08-04 00:09

