2010年 05月 28日
ジャンヌ・モロー |
彼女は、フランス人の父とイギリス人の母との間にパリで生まれ、女優を志して、パリのコンセルバトワールで演技を学びます。
その後、コメディ・フランセーズの最年少座員になって、あのジェラール・フィリップと舞台で共演しますが、映画女優としては、早くから映画に出演していたにもかかわらずパッとせず、
注目されるようになったのは30歳近くになって出演したルイ・マル監督の「死刑台のエレベータ」(1957)からです。
なぜ、それまで関心を持たれなかったかというと、「現金に手を出すな」(1954)で共演したジャン・ギャバンが「あの顔で映画女優をやるのは無理だ」といったように、美人ではなかったからです。
それが「死刑台のエレベータ」でブレークしたのは、当時、実生活で彼女の恋人だったルイ・マル監督がその演技力を買い、単なる美人女優には演じ切れない、リアルな人妻の役を演じさせたからです。
ヌーヴェル・ヴァーグの先駆けになったこの「死刑台のエレベータ」は、マイルス・デイビスのジャズがバックに流れる、それまでのフランス映画にはなかったクールでカッコいい作品でしたが、
このとき、ルイ・マル監督は弱冠、24歳、この後、「恋人たち」(1958)、「地下鉄のザジ」(1960)、「私生活」(1962)とフランス映画史に残る名作を立て続けに発表していきます。
ルイ・マル監督の作品の中で、私が一番好きなのは、やはりジャンヌ・モローが主役を演じた「恋人たち」です。
地方に住む金持ちの有閑マダムが、退屈な田舎生活を嫌って、週末ごとにパリに住む女友達の家に遊びにいって、そのうち恋人を作るのですが、
夫に勘付かれ、その疑いを打ち消すために、女友達と恋人の男を田舎の屋敷に招待しなければならない羽目に陥ります。
その打ち合わせのためにパリに行った帰り、運転していた車がエンストを起こし、若い男の運転する車をヒッチハイクして、その男の車に乗せてもらって家に戻るのですが、ついでにその若い男も屋敷に泊めることになります。
そして先に屋敷に着いていた女友達と恋人と夫とこの若い男の4人で夕食のテーブルを囲むことになるのですが、食事中に夫と恋人が口ゲンカを始めてしまいます。
夫にも恋人にもウンザリして、夜中、一人で屋敷を出て、近くの田園を散歩していると、いつの間にか若い男が後ろからついてきていることに気づきます。
この夜のシーンは、昼間、レンズにフィルターを被せて夜のシーンを撮る「Day for Night」と呼ばれる手法で撮られているのですが、
ジャンヌ・モロー扮する人妻が着ているネグリジェと若い男の着ているシャツが、夜の闇の中に白く浮かび上がり、蛍光色のようにキラキラ光るのがとても印象的でした。
白いネグリジェを着た人妻と白いシャツの前をはだけた若い男が手に持ったグラスを合わせ、「チ~ン」という音が鳴った瞬間、
まるで魔法にでもかかったみたいに、それまで野暮ったいと思っていた若い男が魅力的に見え始め
若い男の方も、高慢ちきで嫌味な有閑マダムにしか見えなかった彼女が魅力的に見えてきます。
その後、ブラームスの調べをバックに、二人が手をつないで森を散歩し、小川に係留してあった手漕ぎボートに乗って抱き合うロマンチックなシーンが続くのですが、
二人が屋敷に戻ってからのベッドシーンは、私がこれまで観た中で一番、感動したベッドシーンです。
ジャンヌ・モローも相手役の若い男も裸にはならないのですが、服を脱がなくとも、監督に力量さえあれば、これだけ迫力あるベッドシーンを撮ることができるという見本みたいなものです。
ジャンヌ・モローは当時、まだ監督のルイ・マルの恋人でしたが、自分がこのベッドシーンを上手く演じたら、
監督としてのルイ・マルは自分を評価するだろうけど、恋人としてのルイ・マルは自分から離れて行くだろうと思ったそうです。
実際、その通りになるのですが、ルイ・マルと別れたあとも、平凡な美人女優には飽き足らないフランソワ・トリュフォー、ミケランジェロ・アントニオーニ、オーソン・ウェルズ、ルイス・ブニュエルなど、
多くの名監督の作品に次々と起用され、英語とフランス語のバイリンガルであったことから、アメリカ映画やイギリス映画にも出演し、
いつしかフランスを代表する大女優になっていきます。
それでも、私なんか、彼女の作品を観ていて、そのパッとしない容姿のお陰で、映画に感情移入をするのがムツカシイことが多かったです。
例えば、男を虜にする魔性の女、エヴァを演じた「エヴァの匂い」 (1962)では、 エヴァの虜になったイギリス男のスタンリー・ベイカーは、若くて美しい婚約者のヴィルナ・リージを捨ててエヴァの元に戻っていくのですが、
どうみてもヴィルナ・リージの方が女として魅力的で、あんな美人を捨てて、なんでこんなくたびれた中年のオバハンと一緒にならんとあかんのか、と納得いかない気分になったものです。
二大女優競演と銘打って、ブリジット・バルドーと共演した映画「ビバ!マリア」(1965)にいたっては、バルドーのお付きの女中にしか見えませんでした。
それでも美人女優だったバルドーは40歳になる前に引退し、モローの方は80歳近くまで現役を続けます。
彼女は自分とバルドーを比較して、
「あの人(バルドー)は偶々、女優になった人で、女優の仕事に未練がなくてさっさと辞めていったけど、私は自分の意思で女優という職業を選び、最初から一生、続けていこうと思っていたから、女優を辞めるという選択肢はなかった」
と語っていますが、ようするにバルドーはスター女優で、モローは演技派女優だったということだと思います。
スターというのは、スクリーンに登場するだけで、観客を魅了してしまう華やかなオーラがありますが、女優の場合は、齢をとって容色が衰えてしまうと、その魅力は急速に色あせてしまいます。
それで引退を余儀なくされるのですが、最初から容色を売り物にしていない、モローのような演技派女優は、齢をとっても、そのときどきの年齢に合わせた役柄を演じることができるので、女優として長持ちするのです。
恋人たち
by jack4africa
| 2010-05-28 00:07
| 思い出の女優たち