2010年 09月 14日
ジョン・コラピント「ブレンダと呼ばれた少年」(1) |
1965年8月22日、カナダ中部のアメリカ国境に近い人口60万の都市、ウィニペグのセント・ボニフェイス病院で、ジャネット・レイマーは双子の男の子を出産します。
ジャネットはそのとき19歳、夫のロンは20歳という若い夫婦で、ジャネットにとっては、これが初めての出産でした。
ブルースとブライアンと名付けられた双子の男の子は順調に育っていましたが、生後七ヶ月が経った頃、ジャネットは双子の赤ん坊が排尿のときに痛がって泣くことに気がつきます。
よく見ると、双子の陰茎の先の包皮がきつく閉じていて、それが排尿をしにくくしていることがわかりました。
小児科医に相談すると、包皮切除手術で簡単に治るといわれ、夫婦は双子にこの手術を受けさせることに決めます。
双子の包皮切除手術は、双子が産まれたセント・ボニフェイス病院で行われたのですが、偶々、その日、手術を担当することになっていた医師が忙しく、別の不慣れな医師によって執刀されます。
最初に手術を受けたのは、双子の兄、ブルースでしたが、医師が包皮の先端を切除する電気焼却器の操作に失敗して、ブルースのペニスを焼き切ってしまうのです。
この事故が起こったお陰で、弟のブライアンの手術は中止されました。
ロンとジャネットは、ブルースのペニスは回復不可能で、大人になっても正常な性生活を行うことは不可能だろうと医師に宣告されます。
絶望の淵に叩き落とされた夫婦は、偶々、テレビでアメリカ、ボルティモアのジョンズ・ホプキンス大学で男性から女性への性転換手術を行っている性科学者、ジョン・マネーのインタービュー番組を見ます。
ジョン・マネー博士は、半陰陽の赤ん坊やブルースのような事故でペニスを失った男の子の赤ん坊を、たとえ彼らの染色体が男性であっても、ホルモン療法と性適合手術で女の子にすることは可能であると主張していました。
半陰陽や男性器に欠陥を持つ子供たちを男性として育てるのではなく、性転換手術を受けさせて女性として育てるべきだという彼の主張は、
ペニスの成形手術が難しいのに対して、膣成形手術は比較的、容易で、不完全なペニスを持って男性として生きていくよりは、性転換して女性として生きていく方が幸せであるとの考えに基づいていました。
このテレビ番組を見たロンとジャネットの夫婦は、ペニスを失ったブルースが女の子として生きていく道があるのではないかと考え、ジョン・マネーに手紙を書き、ブルースの身に起こったことを詳しく報告します。
マネーからはすぐに返事が来て、ジョンズ・ホプキンス大学病院では適切な処置ができるのでブルースを連れてくるように言ってきました。
実は、ブルースの症例は、マネーが待ち望んでいたものでした。
ブルースとブライアンは、同じ遺伝子を持つ一卵性の双子で、この「対等なペア」の片割れであるブルースを男の子から女の子に性転換して、女の子として育てることに成功すれば、
ジョン・マネーが日頃、主張している、男女の性差は先天的なものではなく、後天的に操作できるという理論の正しさが証明できるからです。
ロンとジャネットの夫婦は、ジョン・マネーの招きに応じてブルースを連れてジョンズ・ホプキンス大学病院を訪れ、ジョン・マネーに説得されてブルースを女の子として育てることを決意します。
カナダに戻った夫婦は、ブルースにブレンダという女の子の名前を与え、彼の髪の毛を切らずに伸ばし、可愛らしい女の子の服を着せます。
ブレンダのこう丸を切除する去勢手術は、1967年の夏、ブレンダが1歳と10ヶ月のときにジョンズ・ホプキンス大学病院で実施されました。
膣形成手術はブレンダがもう少し大きくなってから実施されることになり、夫婦は、それまでの間、ジョン・マネーのカウンセリングを受けさせるために、ブレンダを年に1回の割合で、ジョンズ・ホプキンス大学病院に連れてくるように命じられます。
ところが、母親のジャネットはまもなく、ブレンダには、女の子らしいところがまったくないことに気づきます。
ブレンダは、ジャネットが着せたレースの付いた女の子らしい服を着るのを嫌がり、レースを引き裂こうとします。
クリスマスや誕生日のプレゼントとして贈られた人形には興味を示さず、弟のブライアンの持っていたおもちゃの鉄砲に夢中になります。
双子に用便をしつける段になると、ブレンダは女の子のように便座に座って用を足すことを嫌がり、立ち小便をするようになります。
ブレンダのペニスは欠損していたことから、小便はまっすぐ便器に向かって飛ばず、垂直に噴射してトイレを汚してしまうのですが、
ジャネットがいくら言い聞かせても、ブレンダは立小便をやめようとはしませんでした。
またブレンダは弟のブライアンよりも腕白で、双子が取っ組み合いのケンカをすると、勝つのはいつもブレンダの方でした。
ジャネットは、このようなブレンダの様子を心配して、ボルチモアにいるジョン・マネーに相談するのですが、
ジョン・マネーの返事は、ブレンダのような行動は一時的に女の子に見られる現象で、そのうち女の子らしくなるから心配ないというものでした。
しかし、ブレンダが小学校に入ったときに、ブレンダの「異常」はだれの目にも明らかでした。
それまで親戚や近所の人間は、ブレンダが女の子にはまったく見えないことを知っていましたが、ロンとジャネットに気を遣って黙っていました。
しかし、学校ではそうはいきません。担任の教師や児童指導クリニックの医師に問い詰められ、夫婦はブレンダの「秘密」を明かしてしまいます。
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by jack4africa
| 2010-09-14 00:00