2014年 06月 17日
多文化主義か同化か、欧米の移民問題(3) |
最後にフランスですが、パリ盆地を中心とするフランス北部は、子供が成人すると親と別居して独立し、親の遺産は兄弟間で平等に相続する「平等主義核家族」と呼ぶ家族型を持ち、
このような家族型を持つ文化の下で育った人間は、相続が兄弟間で平等に行われることから人間はすべて平等であるという認識を持つようになるといいます。
ただし、この平等主義のフランス北部を取り囲むようにして、フランスの周縁部には、ドイツと同じ「権威主義的家族型」の文化が存在するそうで、
その結果、フランスでは平等主義核家族と権威主義家族という2つの文化が共存しているそうです。
フランス革命のスローガンである自由、平等、友愛が示すようにフランス文化の主流は人間の平等を重視する平等主義ですが、「人類みな兄弟」の平等主義は放っておくとアナーキーに陥りやすく、
それを救っているのが、差異を重視するドイツ的な権威主義家族型の文化で、この文化が周縁部に存在するお蔭で、フランスは国民国家としてまとまっているのだそうです。
ちなみに最近、フランスで勢力を伸ばしている極右政党の「愛国戦線」の支持基盤は、このドイツ的な権威主義的家族型を持つ地域とぴったり重なるそうです。
フランスの移民政策は、元々は、移民を受け入れ国であるフランスに同化させる同化主義でしたが、
その後、国内の移民などの少数民族に対して同化を強制するのではなく、その文化を尊重すべきであるという多文化主義が現れてきます。
その結果、同化主義は時代遅れであるとみなされるようになったのですが、トッドは多文化主義では移民問題を解決することは不可能で、移民を受け入れ国の文化に同化させる同化主義を推し進めるべきであると主張しています。
同化主義が多文化主義よりも優れている例として、トッドはフランスのイスラム移民の間にイギリスのパキスタン系移民やドイツのトルコ系移民の間にみられるようなイスラム原理主義が存在しないことを挙げています。
トッドは、移民を隔離し、社会的に孤立化させる多文化主義こそ、ヨーロッパのイスラム系移民社会におけるイスラム原理主義の台頭の元凶であると断言しています。
フランスでもパリなど大都市郊外のHLMと呼ばれる低所得者向け団地には移民やその子孫が多数居住しているのですが、
このような低所得者向け団地には元からのフランス人である低所得者層の白人も住んでいて、決して移民だけが郊外に隔離されて住んでいるわけではないといいます。
これはブラジルのリオデジャネイロのファベーラと呼ばれる貧民街に黒人や黒人と白人の混血であるムラートだけでなく貧しい白人も住んでいることとよく似ていますが、
ブラジルもフランスと同様、ラテン的な平等主義の国で、人種という概念が通用しないほど混血が進んでいて、貧困ゆえの様々な社会問題は存在するものの、人種問題は存在しません。
フランスで一番大きな移民集団は、マグレブ3ヶ国(モロッコ、アルジェリア、チュニジア)からのイスラム系移民とその子孫で、人口の10パーセントに相当する500万人もいるそうです。
これらマグレブ出身のイスラム系移民とその子孫はフランスで最も嫌われている移民集団を構成しているそうですが、彼らがフランス社会で嫌悪される理由は、彼らの出身地域であるマグレブ地方の家族型が、
兄弟が結婚しても親と同居して、親と複数の兄弟夫婦とその子供たちが大家族を作って住み、イトコ同士の結婚が推奨される「内婚制共同体家族」と呼ばれる家族型で、
この家族型が、フランスの主流である外婚制(イトコ婚をタブー視する)で核家族である平等主義核家族の文化と対立するからだそうです。
しかし、平等主義で同化主義のフランス文化のお蔭で、このマグレブ地域の家族型は移民2世になると急速に崩壊してしまうといいます。
たとえば、アルジェリア移民2世の男性の50パーセントはアルジェリア人以外の女性と結婚するか同棲していて、
アルジェリア移民2世の女性の25パーセントがアルジェリア人以外の男性と結婚しているか同棲しているそうです。
つまり、マグレブ移民とその子孫は、社会集団としてフランス社会では嫌われているものの、個人レベルではフランスへの同化が進んでいるということらしいです。
このへんは、日本で在日朝鮮韓国人が社会集団として嫌われているにも関わらず、在日韓国人の80パーセントが日本人と結婚していて(ソース:鄭大均著「在日・強制連行の神話」)、日本への同化が進んでいるという状況によく似ています。
ただし同じイスラム系移民でも、ドイツからはみ出した形でドイツとの国境地帯に居住しているトルコ系移民2世の外婚率(トルコ人以外と結婚する比率)はドイツ国内のトルコ移民2世と同様、非常に低いそうです。
このドイツとの国境地域は、ドイツと同じ権威主義的家族の文化を持っているそうで、それがこれら地域に住むドイツ移民の孤立化をもたらしている要因かもしれません。
フランスにも70年代から多文化主義が流入してきて、その結果、移民のフランス社会への同化が遅れたそうですが、最終的にはフランスの平等主義のお蔭で、移民はフランス社会に同化するだろうとトッドは予測しています。
ただ、ヨーロッパがEUとしてひとつにまとまることで、EUで一番経済力のあるドイツの差異主義的な文化がフランスの平等主義的な文化を飲み込んでしまう危険があるとも指摘しています。
今年の5月にフランスで実施された欧州議会選挙では極右政党の「国民戦線」が大幅に票を伸ばして躍進したのは、もしかしたらフランスにおけるドイツ的な差異主義文化の勢力増大を意味するのかもしれません。
日本でも最近、少子化による人口減の問題を解決するために移民の受け入れを推進すべきであるという考えが出てきているようですが、ひとつだけ確実にいえることは多文化主義は必ず失敗するということです。
以前「移民問題:オランダの場合」というエントリーに書いたのですが、オランダでは移民に対して多文化主義を採用して、イスラム系移民の子供はアラビア語で授業するイスラム教徒向けの学校で学べるようにしたら、
その結果として、オランダで生まれ育ったにも関わらず、十分にオランダ語の読み書きができないイスラム移民2世の若者が増え、
彼らは語学力不足ゆえに学校を卒業してもまともな仕事に就けず、無職になって犯罪に走るという結果を招来したといいます。
またこのエントリーを読んだオランダ在住の日本人女性がメールをくれたのですが、
彼女がいうには、オランダで対立しているのは、元からのオランダ人と移民だけでなく、移民同士もモロッコ系移民とトルコ系移民に別れて対立し抗争を続けているそうです。
アメリカやオーストラリアのような広大な国土を持つ国では、気の合わない民族同士、別々に住んで摩擦を少なくするという方法もあるかもしれませんが、
オランダのような国土の狭い国で、複数の異なる民族が互いにいがみ合って暮らすというのは考えただけでシンドイ話です。
最近はオランダも多文化主義の過ちを認めて単一文化主義(同化主義)に転換したそうで、現在ではオランダで永住権を取得しようと思ったら、非常に難しいオランダ語の試験に合格しなければならなくなっているそうです。
トッドは多文化主義は同化を遅らせるだけだと批判していますが、その通りになったわけです。
本日のつぶやき
コートジボワール戦、残念でした。
私もかってレシフェで黒人や黒人と白人の混血のムラートと呼ばれる男たち相手に激しい肉弾戦を演じたものですが。。。
今はもう遠い夏の日の花火です。
by jack4africa
| 2014-06-17 00:01
| 国際関係

