2015年 03月 17日
マフとレレ:タヒチの第三の性 |

18世紀から19世紀にかけて南太平洋、ソシエテ諸島のタヒチにやってきた白人の探検家や交易者は、タヒチで女装して女性として生きている男性を発見して驚きます。
これら女装の男性はマフ(Māhū)と呼ばれ、ネイティブ・アメリカンのベルダーシュと同様、地域の共同体によってその存在が受け入れられていただけでなく、
男性と女性の両方の性質を兼ね備えた特別な人間として尊敬を集めていたといいます。
マフは、機織りや刺繍、布に花模様を画くペインティング、マットやバスケット等、工芸品の製作などの女性の仕事に従事し、
私生活では女性と同棲することはなく、男性ではなく女性としてフツーの男性と同棲又は結婚生活をおくっていたそうです。
このタヒチのマフのような女性的男性は、まもなくポリネシア全体、北はハワイから南はニュージーランドまで、東はトンガから西はイースター島にまで存在することが確認されます。
呼び名は、サモアではファファフィネ、トンガではファケレイティと地域により異なりますが、女装して女性として生活していて、地域の共同体にその存在が受け入れられているところはタヒチのマフと変わりなかったそうです。
かってタヒチでは、ベルダーシュの一派であるメキシコのオアハカ地方のムシェと同様、子供が男の子ばかりだった場合、
男の子の1人を娘=マフとして育てる習慣があったそうですが、現在では自己申告でマフになるといいます。
つまり、本人が自分はマフであると自覚した場合、マフとして生きることを選択するということらしいです。
タヒチでは、最近、マフに加えてレレ(Raerae)と呼ばれる女性的男性も出てきているそうです。
マフとレレはしばしば混同され、その区別はかなり曖昧だそうですが、マフがタヒチの第三の性の文化を受け継ぐ伝統的存在であるのに対して、
レレの方は新世代の第三の性で、豊胸手術や性転換手術を受けている者が多く、外見はより女性に近く、売春を生業にしていることから、その社会的地位は低いといいます。
上の動画では、まず最初にタヒチアンダンスの教師をしている中年のマフが登場します。
彼は自分がタヒチの伝統文化を受け継ぐマフであることを誇りに思っていると語っています。
しかし、ランニングシャツと短パンというラフな格好の彼は普通のオッサンと大して変りないように見えます。
その次に登場するのがデザイナーをしている中年のマフで、彼は最初に登場したダンス教師のマフと違ってちゃんと女装して化粧していますが、
整形手術などは受けていないようで、外見は女装のオッサンという感じです。
そして最後にレレたちが登場するのですが、彼(女)たちは、非常に女性的というか、豊胸手術で胸も膨らんでいて、外見は女性と見分けがつきません。
そのため、この動画を視る限り、レレはタイのカトゥーイや日本のニューハーフによく似ていて、性転換して生まれながらの性とは反対の性になりたがる性同一性障害者に近いように見えます。
いずれにせよ、レレよりも最初に登場するマフの方がタヒチの伝統的な第三の性であることは、その男っぽい外見から見て明らかです。
かってのタヒチでは、現在のような性転換手術や美容整形の技術は存在しなかっただろうし、そのため、マフは現在と同様、女装していても男としての身体的特徴は残していた筈だからです。
またポリネシアにはインドや中国のような宦官制度がなかったことから、タヒチのマフはインドのヒジュラのように去勢する習慣もありませんでした。
そういう意味では、性同一性障害者に近いレレに対して、マフの方は同性愛者に近いのではないかという気がします。
私は男性から女性への性転換を望む性同一性障害者も一般の男性同性愛者も心の性が女であるにもかかわらず、身体の性が男であること、すなわち、心の性と身体の性が不一致であることは共通していると思っています。
ただ、同性愛者の場合は、わざわざ手術までして心の性と身体の性を一致させようとは考えていないのに対して、性同一性障害者は手術をしてでも心の性と身体の性を一致させたいと希望する点が異なっていると考えています。
かってマフは女性の仕事に従事していたといいますが、現在のタヒチでは、愛嬌があって、細やかな気遣いができることから、ホテルやレストランの従業員など接客業に従事しているマフが多いといいます。
そしてその場合には、過度に女っぽく見える外見は必要ないわけです。
一方、レレの方がより女らしい外見を持つのは、彼(女)たちの多くが売春婦として働いていることと無関係ではないと思われます。
彼(女)らはパペーテの港に寄港する外国の軍艦の水兵相手に売春しているそうですが、「女」を売り物にして商売しているわけだから、
自分の身体を女に近づける必要があるわけで、そのために美容整形や豊胸手術、ホルモン注射等を行って身体を女性化し、最終的には性転換手術を受ける者も出てくるみたいです。
彼(女)らの中には普通の女性では敵わないような「美女」もいますが、そうなるための代償も大きいといいます。
以前、あるニューハーフに訊いた話ですが、性転換のためのホルモン療法や性別適合手術は副作用が大きいそうで、
たとえば、性別適合手術で睾丸を除去した場合、ホルモンのバランスが崩れて、極度の鬱になり、自殺に至るケースもあるそうです。
そして現在の技術では、手術で膣を形成したとしても、本物とはほど遠く、性交時の快感も得られないといいます。
そういう意味では、手術までして無理に女になろうとはせず、かといって自分の中の女は隠すことなく堂々と表に出し、男の身体のまま女性的男性としておおらかに生きているマフの方がより自然な感じがしますし、
タヒチでマフは尊敬される一方、レレは尊敬されていないというのもなんとなく理解できます。
「世界男色帯」
by jack4africa
| 2015-03-17 01:08