2006年 10月 02日
アラビア語の魔力 |
外国人が習得するのに一番難しい言語として日本語とアラビア語がよく挙げられます。
日本語もアラビア語も話し言葉を習得するのはそれほど難しいとは思いませんが、読み書きまで堪能になろうと思えば、相当の努力が必要です。
日本語にはひらがなとカタカナと漢字の3種類の文字があって、それを組み合わせて文章を書くわけですが、同じ漢字でもときに応じて読み方が様々に変化するなど、外国人泣かせの言語であろうことは容易に想像がつきます。
アラビア語についていえば、文法がもの凄くややこしいのです!
たとえば二人称ですが、フランス語のように目上の人にたいして使う「あなた」と親しい仲で使う「お前」の2種類があり、同じ「あなた」でも相手が男性のときと女性のときでは異なり、さらに複数形でも相手が2人のときと2人以上のときは異なってくるのです。
さらに、時制もヨーロッパ言語のような現在形、過去形、未来形、現在完了形、過去完了形以外にもいろいろあって(もう忘れましたが)、同じ1つの動詞の活用が、文章に合わせてアラベスクのように何百にも変化するのです!
私は当初、失礼ながらそれほど頭が良いとも思えない一般のエジプト人がこれほど難解なアラビア語の文法をどうして習得できるのだろう、と不思議に思っていたのですが、しばらくエジプトに滞在してその謎が解けました。
一般のエジプト人は正確なアラビア語の文章が書けないのです!
彼らが日常、話す口語のアラビア語は、文法が思いっきり簡略化されたアラビア語で、イスラムの聖典コーランが書かれている、正統とされる古典アラビア語を使って文章を書くなどという芸当ができるのは、少なくとも現地の大卒以上のレベルのアラビア語の素養を持つ人間だけなのです。
アラビア語は習得するのは難しいですが、とても美しい言葉です。
アラブ人が日常会話で使う口語のアラビア語はうるさいだけで、ちっともキレイではないですが、古典アラビア語に近い演説用のアラビア語(というものが存在するのです)は、アラビア語のよく判らない私のような外国人でも、その抑揚の美しさに聴いていてウットリしてしまいます。
フランス語やイタリア語、スエーデン語など、ほかにも耳で聴いて心地よい言語はありますが、アラビア語の美しさには到底、かないません。
私のようにアラビア語が理解できない外国人でも、アラビア語を聴いてウットリするくらいですから、内容の判るアラブ人がアラビア語の演説を聴いて、恍惚となるのも無理はありません。
湾岸戦争で、イラクが英米軍にボロ負けに負けたとき、サダム・フセインがイラク国民に向けて演説をしたのですが、その締めくくりの言葉は「勝利の美酒はなんと美味であることよ!」でした。
これは冗談ではなく、本当の話です。アラビア語には、負けた戦争を勝ったと言いくるめるだけの魔力があるのです。
聴衆の方は、アラビア語の演説を聴いているうちに、段々と演説に酔ってきて恍惚となり、負けたはずの戦争に勝ったような気分になってくるのです!
実際、サダム・フセインをはじめとしてアラブのリーダーは例外なく演説が巧みです。彼らはアラビア語が持つ魔力を熟知していて、みずからの失敗を糊塗するためにそれを利用するのです。
かって、アラブの部族同士の戦闘では、両軍の大将が自作の詩を朗読してその優劣を競い、その結果で勝敗を決めるという習慣があったそうです。
そういう話を聞くと、アラブ民族は本当に平和な民族だと思いますね。
その分、実戦では、からきし意気地がなかったりするのですが・・・
by jack4africa
| 2006-10-02 23:03
| アラブ・イスラム世界