2006年 12月 21日
フランスの個人主義 |
もう直ぐクリスマスですが、毎年、クリスマスが近づくと思い出すことがあります。
若い頃、フランスに住んでいたとき、フランス語のヒアリングの勉強を兼ねてラジオの「悩み事相談」番組をよく聞いてました。
うわべだけでは中々、判らないフランス人の生活の内情がうかがえて面白かったですが、クリスマスも間近いある日、パリで一人暮らしをしているという80歳を過ぎた身寄りのない老女が番組に電話をかけてきました。
彼女は「私は一人暮らしで、家族も身寄りも友人もいません。もうじきクリスマスだというのにクリスマスを一緒に過ごす相手が一人もいないのです。去年のクリスマスも一人ぼっちでした。おととしのクリスマスも一人ぼっちでした。今年のクリスマスもまた一人ぼっちで過ごさなければならないのかと思うと悲しくてたまりません」といって泣くのです。
その悩み事相談の番組は、電話を受ける担当者の背後にボランティアのスタッフが控えていて、その場で解決できる問題はその場で解決してしまうというのをウリにしていました。
そのときも担当者が老女に過去に誰かと一緒にクリスマスを過ごしたことがないか訊ね、5、6年前に一度、近所に住むお医者さんが一人暮らしの彼女に同情してクリスマスに食事に招待してくれたことがあることを聞き出します。
そして彼女がまだ電話で話をしている間にボランティアのスタッフがそのお医者さんに電話をして、今度のクリスマスに彼女を食事に招待してくれるように頼み込み、お医者さんの承諾を得ました。
担当者はそのことをすぐに老女に伝え、「良かったですね。今年のクリスマスはあなたは一人ぼっちではありませんよ」と慰めていましたが、
「私は一人ぼっちなんです。本当に一人ぼっちなんです!」と電話口で泣きじゃくる老女の声は今でも私の耳に残っています。
私もフランスで生活してみて、フランスの個人主義の冷たさを骨身に沁みて感じました。
個人主義というのは、若くて元気な人間や金持ちにとっては大変、都合の良いものですが、この老女のような貧しくて身寄りのない老人にとっては本当に残酷なものです。
パリには町内会も老人クラブもなく、老人たちは日がな一日、公園のベンチに所在なげに座っているだけです。
冬は寒いので公園にも行けず、家の中に閉じこもっているのです。
日本でも最近、孤独な老人が増えてきているといいますが、それでもフランスに較べるとずっとマシです。
家族との関係はまだ緊密だし、近所付き合いもあります。
実際、ウチの近所で見かける老人たちは、パリで見かけた老人たちよりずっといきいきしていますネ。
by jack4africa
| 2006-12-21 18:52
| 海外生活&旅行