2008年 03月 25日
ユダヤ人 |
日本人にとって一番、理解するのが難しいのは欧米におけるユダヤ人差別でしょう。
欧米キリスト教徒によるユダヤ人差別は、ナチスドイツのホロコーストでピークを迎えますが、ユダヤ人を差別したのはなにもドイツ人が初めてではなく、それ以前にもヨーロッパにおけるユダヤ人差別の歴史は連綿と続いていて、
第二次大戦後も、かってのようにあからさまな差別がなくなっただけで、フランスでも最近、ユダヤ人墓地が何者かによって荒らされるという事件が起こっています。
昔、フランスに住んでいたとき、知り合いにユダヤ人の毛皮商の一家がいましたが、その毛皮商の主人は、フランスがドイツに占領された第二次大戦中は、フランスの田舎の知り合いの農家に匿ってもらってなんとか生き延びることができたそうですが、家族や親戚を17人、アウシュビッツその他で失ったといっていました。
彼の奥さんは非ユダヤ人でしたが、夫婦には息子が一人いて、その非ユダヤ人の奥さんが「うちの息子はユダヤとアーリア系の混血だ」といっていたのが印象に残っています。
ユダヤ人というのは人種的にはアラブ人と同じセム族で、かっては完全な白人扱いはされていなかったみたいです。
中東でもイラン人やパキスタン人、北インドのインド人はアラブ人ではなくアーリア系に分類され、多少、色は黒くとも、自分達はアーリア系(白人)であるという意識が強く、アラブ人を見下す傾向があります。
あと日本人女性が結婚する欧米人は、国籍に関係なくユダヤ系の男性が多いです。
たとえば、女優の岸恵子が結婚していたフランス人の映画監督はユダヤ系でした。
アメリカ人でも日本女性と結婚するのはユダヤ系の男性が多く、WASPと呼ばれるアングロサクソン系の白人プロテスタントのエリート白人が有色人種である日本女性と結婚することはめったにないそうです。
ただし、正式には、ユダヤ人の定義は人種ではなく、宗教に基づくといいます。
つまり、ユダヤ教の信者であれば、人種に関係なく、ユダヤ人に分類されるというのです。
そのため、イスラエルにはアラブ系のユダヤ人もいるし、エチオピアからやってきた黒人のユダヤ人もいるそうです。
それでも、その一方で典型的なユダヤ顔というものも存在します。
たとえば、映画監督のS・スピルバーグとか、キッシンジャーとかは、典型的なユダヤ顔をしています。
彼らは、ドイツや東欧出身のユダヤ人の子孫です。
現在のイスラエルで実権を握っているのもアシュケナージと呼ばれる東欧出身のユダヤ人で、アラブ系や黒人系のユダヤ人は二級市民として差別されているといいます。
ユダヤ人は優秀で頭の良い人種だとよくいわれます。
前述の毛皮商の奥さんは、フランスの学校のクラスにユダヤ人の生徒が3人いると、そのクラスの成績順位の1番と2番は必ずユダヤ人の生徒が占めるといっていました。
1番から3番まで独占しないのは、ユダヤ人でも3人に1人くらいは凡庸な人間がいるからだそうです。
実際、ユダヤ人は西洋文明に大きく貢献しています。
共産主義理論を構築した偉大な(あるいは罪深い)思想家のカール・マルクス、精神分析を発明した心理学者のフロイト、相対性理論で有名なアインシュタイン、ニュートンの法則のアイザック・ニュートン、ヒロシマ・ナガサキに落とされた原子爆弾を作って原爆の父と呼ばれたロバート・オッペンハイマー。
音楽家ではメンデルスゾーン、グスタフ・マーラー、レナート・バーンシュタイン、作家ではカフカ、プルースト、ノーマン・メイラー、サリンジャー、画家ではモジリアニ、シャガールと枚挙のいとまがありません。
あとユダヤ人女性には美人が多いといわれていますが、映画スターではオードリー・ヘップバーンやエリザベス・テイラーがユダヤ系です。
このように様々な分野におけるユダヤ人の活躍には目覚しいものがありますが、同時にユダヤ人の過去の歴史は、自分が住む土地の多数派に同化することを拒絶して、みずからの優越性を主張する少数民族がいかに悲惨な運命に見舞われるかもよく示しています。
ホロコーストという未曾有の悲劇を経験したユダヤ民族が第二次大戦後、自分達の国家の樹立を夢見たのは自然の成り行きだったと思いますが、問題はユダヤ人が2500年も前に書かれた旧約聖書の記述を根拠に、
パレスチナこそがユダヤ人にとっての「約束の地」であると主張し、そこに住んでいたパレスチナ人を追い出して、ユダヤ人の国家、イスラエルを建国したことです。
70年代末にイスラエルを旅行したことがありますが、イスラエルという国が周囲のアラブ国家とは較べものにならないほど効率的に運営されていることに感心したものの、占領地のアラブ人を公然と差別し、見下す傲慢なイスラエル兵やイスラエル人の警官の態度はみていて不愉快でした。(「エルサレム」を参照)
アラブの国に5年間、住んだ私の目にはアラブ人は、それほど優秀ではないかもしれないけれど、とても愛すべき人達として映っていたので、ユダヤ人に差別されるアラブ人が気の毒でしようがありませんでした。
前述のフランス人のマダムに習っていえば、私にとってイスラエルというのはクラスで一番、よく勉強ができる秀才だけれど、絶対に友達にはなりたくないタイプ。
反対にアラブの方は勉強はできないけど、凄く好いヤツで、一緒にいると本当に楽しいクラスメートといったところでしょうか。
親は「劣等生のアラブとばかり遊んでないで、秀才のイスラエル君と付き合いなさい」なんていうけど「冗談じゃない、だれがイスラエルなんかと仲良くするか!」といった気分でしょうか・・・
イスラエルの建国の結果、多くのパレスチナ人がパレスチナの地を追われ、現在もなお続くパレスチナ問題が生まれたのはよく知られているとおりですが、イスラエルが周囲を敵対するアラブ国家に囲まれているにもかかわらず、現在までなんとか生き延びてこられたのは、アメリカの強力なバックアップがあったからです。
アメリカがそこまでイスラエルを援助するのは、直接にはイスラエルの人口の500万人を超える600万人のユダヤ人がアメリカに住んでいて政財界で活躍し、強力なユダヤロビーを形成しているためですが、
元々、イギリスでの宗教的迫害を逃れて新大陸にやってきた清教徒が先住民のアメリカインディアンを虐殺して作ったアメリカと、ヨーロッパにおける差別・迫害を逃れてパレスチナにやってきて先住民であるパレスチナ人を虐殺し、追い出して作ったイスラエルとは建国の経緯がよく似ているので、心情的にイスラエルを応援したくなるのでしょう。
しかし、アメリカがイスラエルを支援した結果、パレスチナ人を含むアラブ人の間で反米感情が高まり、それが9.11テロにつながったわけです。
9.11テロに対するアメリカの反撃は、アフガン空爆、イラン戦争と拡大の一方をたどっていますが、それがアラブ人の間であらたな反米感情を生み、あらたなテロを誘発するという悪循環に陥っています。
この悪循環を断ち切るには、アメリカがイスラエルに圧力をかけて、パレスチナ問題で譲歩を迫る以外ないと私は考えています。
特に良心的であることを自認するアメリカのユダヤ系のリベラルな知識人がイスラエルに対して物申すべきだと思いますね。
いつだったか、ユダヤ系の作家・批評家のスーザン・ソンタグがイスラエルの何とか言う文学賞を受けたときのスピーチで、「イスラエルはテロの報復としてパレスチナの一般市民を殺戮すべきではない。パレスチナ人の住むパレスチナ西岸のイスラエル人入植地は撤去すべきだ」と発言して、
その「勇気」を讃えられたそうですが、その程度のごくごくあたり前の穏当な発言でさえも「勇気ある発言」とみなされるところに、逆に欧米の知識人がイスラエル=ユダヤ人を批判することの困難さが表れているような気がします。
いずれにせよ、スーザン・ソンタグは一番、肝心なことを言っていません。
彼女が言うべきだったのは、「ユダヤ人が先住民のパレスチナ人を追い出してパレスチナにユダヤ人国家を建設した事実を正当化できる根拠は存在しない」こと。「ユダヤ人が過去に差別を受け、迫害された事実は、ユダヤ人によるパレスチナ人に対する差別や迫害を正当化するものではない」ということです。
この二つの点をイスラエルが認めて、パレスチナ人に謝罪しない限り、パレスチナ問題は解決されないし、パレスチナの悲劇は続くでしょう。
そしてそのことは長期的に見てイスラエルの利益にならないと思いますね。
なぜかというと、アラブ人女性はユダヤ人女性よりもずっと沢山の子供を生み、将来的にはパレスチナ人の人口がユダヤ人の人口を上回ることが予測されるからです。
イスラエルがいくらパレスチナの若者を殺しても、パレスチナの母親はそれに対抗して子供を産み続けますから、力でパレスチナを抑えることは不可能なのです。
by jack4africa
| 2008-03-25 00:22
| 国際関係